将来の介護費用の問題
交通事故によって重大な傷害を負い、重い後遺障害が残った場合には、将来にわたって介護が必要となることがあります。
このような場合、被害者本人にとっては、残りの人生を重い後遺障害を抱えながら生活しなければならず、また、被害者の家族にとっても、将来にわたって介護を継続しなければならないという重い負担を負うことになります。
後遺障害の程度や家族の生活状況等によっては、施設に入所して介護士等の専門家(職業介護人)による介護を受けなければならないこともあり、そのような場合には介護による金銭的負担も大きなものになります。
また、在宅で介護をすることができる場合であっても、自宅に手摺りを付けるなどの改築が必要となることもあり、そのような改築費用の金銭的負担も大きいです。
将来にわたり介護が必要となるケースでは、被害者や家族に大きな負担が伴う反面、損害賠償金が膨大な金額になるためか、争いが激化することが少なくありません。
以下では、争いになりやすい問題に分けて記載します。
介護の必要性
将来の介護費用が損害として認められるためには、将来にわたり介護が必要であると認められなければなりません。
介護が必要であるか否かは、後遺障害の内容や程度、それによって生じている日常生活動作の制限の程度等を考慮して判断されます。
起居動作、移乗、移動、食事、更衣、排泄、入浴、整容といった日常生活動作について介助が必要である場合には、介護の必要性自体は認められることが多いですが、どの程度の介護が必要であるか(「常時」介護が必要か、「随時」の介護で足りるか)が問題となることがあります。
他方で、高次脳機能障害(詳しくは【高次脳機能障害に強い弁護士】をご覧下さい)などでは、介助までは必要ないものの、他者に暴力をふるったり、自傷行為に及んだりしないように、看視や声掛けが必要な場合もあります。
このような場合には、そもそも介護が必要であるのか、介護の必要性自体が問題となることが多く、また、仮に必要性が認められたとしても、どの程度の介護が必要であるか(「常時」看視が必要か、「随時」の看視で足りるか)が問題となることが多いです。
実際のケースでも、肉体的には支障がなく、食事、排泄、入浴など日常生活動作のほとんどを独力で行えるものの、高次脳機能障害の影響で感情の抑制ができず、暴力や暴言の恐れがあり、徘徊の恐れもあるというケースで介護の必要性が問題となり、結果として「随時」の看視が必要であると判断された例もありました。
介護態様
介護の必要性が認められても、在宅介護か施設介護かという介護場所の問題、介護をするのは家族等の近親者が職業介護人かという介護主体の問題があります。
被害者本人としては、家族等の近親者による在宅介護の方が精神的安定を得られることが多いと思われますが、他方で、在宅介護は介護費用が高額になりやすく、その費用が全て損害として認められるわけではないという問題があります。
また、在宅介護の場合には、家族等の近親者に肉体的負担や精神的負担が伴うことがあり、場合によっては近親者が仕事を辞めなければならないこともあります。
どのような介護方法が適切であるかは、後遺障害の内容や程度、必要とする介護の内容、被害者本人の意向、家族の年齢や生活状況等を考慮して判断されることになりますが、被害者本人や家族の心情も絡む非常に難しい問題です。
介護期間
介護は、被害者本人が死亡するまで一生必要となるものであり、一般には平均余命までの期間の介護費用が認められるのが通常です。
もっとも、被害者の容態によっては、果たして平均余命まで生きられるのかが問題となることがありますし、また、損害賠償金について係争している間にお亡くなりになることもあります。
介護期間が長くなればなるほど、将来の介護費用も莫大な金額にのぼりますので、介護期間も重要な問題です。
介護費用が問題となる場合には弁護士に相談を
冒頭で述べましたとおり、将来の介護費用が問題となる場合には、損害賠償金額が高額になることが少なくありません。
例えば、1日当たりの介護費用が8000円、平均余命まで20年といったケースでは、
8000円×365日×12.4622=3638万9624円
になります。
その他に、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料も発生しますので、将来の介護費用が問題となるケースでは、損害額の合計が1億円を超えることも少なくありません。
しかし他方で、金額が大きい反面、大きな争いになることも多いように感じます。
また、介護の必要性(介護が必要であるか、どの程度必要か)、介護態様(在宅介護によるべきか、施設介護によるべきか)、介護期間などはいずれも評価的要素が加わるため、どの程度の介護費用が認められるか事前に見通しを立てるのが難しい問題でもあります。
介護に必要であると思って自宅を改築したものの、結果として改築費用は損害賠償として認められなかったなどといったことがないように、介護費用が問題となる場合には、お早めに弁護士にご相談下さい。